任意整理した後に払えなくなった時はどうすればいいの?

任意整理

任意整理は貸し手側(債権者)との交渉、和解した結果で減額された借金を3年~5年程の期間で返済していきます。

しかし任意整理した後、

  • 職を失ってしまった
  • 病気になってしまった

などの理由で、和解で約束した返済ができなくなってしまう可能性はゼロではありません。

では任意整理後に約束された返済額を支払えなくなってしまった時はどうすればよいのか?どんなデメリットが生じるのか?どう対処すればよいのかを詳しくご説明いたします。

任意整理後の支払いが遅れるとどうなる?

任意整理は借り入れ先(債権者)との和解にて借金を減額、返済期間を3年間(36回)とした場合、約束した返済期間内で支払いを滞らせず、返済していかなければなりません。

返済期間は債権者との話し合いの結果、返済期間を5年(60回)等に延長できる場合もあります

返済は原則毎月行っていきますが返済ができない期間が続くと支払いできない理由が何であれ、債権者から一括返済が求められます。

これは期限の利益喪失となるからです。

期限の利益喪失とは

期限の利益喪失とは、債務者(お金を借りている方)が権利である「期限の利益」を失うことを指します。

「期限の利益」は債権者と約束した返済日までにお金を返せばよいといった権利であり、この期限の利益があることで、債権者から一括返済を請求されるといったこと等ありません。

期限の利益については民法136条で定められています

第136条
期限は債務者の利益のために定めたものと推定する。
期限の利益は放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

この期限の利益によって債務者(お金を借りている方)は債権者(借り入れ先)に対し、以下の利益を要求できます。

  • 返済期日まで返済を拒否できる
  • 分割払いを要求できる
  • 保証人への請求を止めることができる

任整整理後に返済ができなくなった場合、この期限の利益を失ってしまいます。これを期限の利益喪失といいます。

期限の利益喪失とは

第137条
次に掲げる場合には債務者は、期限の利益を主張することができない
1. 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
2. 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
3. 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

期限の利益喪失となれば、債権者は債務者に対し一括返済を請求することもできます。

期限の利益喪失となるタイミングはいつか

期限の利益喪失となるタイミングは任意整理の和解では通常、滞納回数が2回以上となった時です(和解契約内容に基づきます)。

もし和解契約内容で2ヶ月以上の滞納で期限の利益喪失となる場合、滞納した回数が1回か2回かで対応は変わります。

例えば和解契約で毎月10日支払い、4月から支払いが開始されたとします。

4月の支払いが出来なかった(滞納した回数が1回)

滞納した回数が1回であれば、期限の利益喪失にならないため、一括返済は求められません。

ただし約束通りに支払えなかった分を次の返済のタイミングで合わせて支払う必要があります。こうすることで和解契約を損ねず、返済を続けることができます。

4月だけでなく、5月も支払い出来なかった(滞納回数が2回)

滞納した回数が2回で、期限の利益喪失となるため、債権者は残債分の一括返済を請求することができます。

一括請求時は遅延損害金も含め請求されるため、返済額も増えます

この時点で分割払い等、対応する義務は債権者にないため、債務者の経済状況等、関係なく一括請求されます。

一括返済を請求された場合、債務者が取るべき対応

一括返済を請求されても現実的に支払えない時にはどうしたらよいのか?方法は以下の3つです。

  • 再和解
  • 追加介入
  • 他の債務整理を検討する
再和解とは

任意整理した債権者と再び任意整理を行い、和解契約を結ぶ方法です。

ただし期限の利益喪失している状態、つまり一度、和解契約を破っていることから信用も失っている状態であるため、再び和解に応じてくれる可能性は低くなります。

再和解に応じてくれるかは債権者(貸金業者、保証会社等)によっても異なります

仮に再和解できたとしても発生する遅延損害金はカットしてくれない場合もあります。この場合は遅延損害金を含めた金額を返済していくことになるため、いままでよりも返済負担が増える可能性もあります。

つまり一度目に任意整理した時よりも返済額が増える(返済期間の短縮も含め)、1回でも未払いがあれば期限の利益喪失となるなど、条件は厳しくなるケースを想定しておきましょう。

追加介入とは

任意整理では対象とする債権者を選ぶことができますが、除外していた債権者を追加して任意整理を行うこと(追加介入)ができます。

この追加介入で減額効果が見込めるのは、除外した債権者から高金利で借り入れしている場合です。

任意整理は支払う利息分をカットし借金を減額する方法であるため、高金利で借り入れしている場合は支払う利息が大きくなるため、減額効果は見込めます

除外していた債権者が低金利の場合、カットされる利息は少なくなるため、返済額(利息も含んだ金額)の減額効果は薄くなります。

例えば、銀行のローン、マイカーローン、教育ローン、ろうきん等の場合、元々融資した際の金利が低いため、減額効果は見込めません。

返済が遅れてしまう時の対処方法

返済が遅れてしまうことが分かっている、もしくは遅れると分かった時点で、任意整理を依頼した弁護士や司法書士に連絡しましょう。

支払いの代行を弁護士、司法書士に依頼している場合

任意整理後の債権者への支払いを弁護士や司法書士が代行しているケースがあります。返済の代行依頼をしている場合は事前に弁護士等から連絡が入ります。

債権者の口座へ直接振込している場合

任意整理を弁護士や司法書士に依頼した場合でも代行依頼せず、ご自身で債権者の口座へ支払っている場合も同様に、まずは担当した弁護士等に連絡を入れましょう。

一時的に支払いが難しい場合は弁護士、司法書士が債権者へ支払いを猶予してもらえないか相談することもできます。

今後も返済額の工面が難しい場合は追加介入、もしくは他の債務整理も視野に入れ、支払いをどうするのか?今度、どのように対応していくのか?話し合いましょう。

積立金から一時的に支払ってもらえることもある

任意整理を弁護士や司法書士に依頼した際、手続きが完了するまでの間で一定金額を積み立てして頂くケースが多いのですが、これは費用の支払い、任意整理後にきちんと返済していけるのかをシミュレーションする意味合いがありますが、この時に支払ったお金を「積立金」として扱われる場合があります。

積立金はそのまま専門家(弁護士、司法書士)費用に充てることもできますし、費用の支払いを超えた金額については、ご自身に返金されるか、債権者への支払いに回すこともできます。

今後の返済が難しい場合は他の債務整理も検討する

任意整理後の返済が難しい場合、

  • 個人再生
  • 自己破産

といった他の債務整理を検討しなければなりません。

個人再生、自己破産ともに任意整理よりも手続きが難しく、弁護士等の専門家に依頼することになり、費用も任意整理よりも高くなります。

また個人再生、自己破産ともに全ての借金が対象となるため、任意整理のように特定の借金を除外できません。

例えばローンで購入した車を支払いしている場合、任意整理では対象から外すことができるため車を所有したままにすることが出来ますが、個人再生では除外できないため、没収されます。

自己破産ではローンがある場合は同じように没収されてしまいますが、ローンを完済している場合は価値によっては没収されない場合もあります。

個人再生ではローンを支払った物は没収されませんが、自己破産では20万円以上の価値があると査定し判断される物は没収されます(車の場合は新車購入後6年経っていれば査定なしで残せます)。

あと個人再生、自己破産ともに官報に掲載されます。官報は国の新聞のような物で誰でも閲覧できます。閲覧している方は少ないとはいえ、第三者に知られる可能性は高くなります。

では、個人再生、自己破産の特徴を見ていきましょう。

個人再生とは

個人再生とは任意整理のように利息や遅延損害金のカットではなく、元金を含め借金を減額する債務整理です。

減額効果は借金総額に応じて基準が定められており、最大で10分の1まで借金は減額されるなど借金が多い方ほど減額効果が高くなります。

借金総額個人再生後に残る借金
100万円未満借金総額
100万円~500万円以下100万円
500万円~1,500万円以下借金総額の5分の1
1,500万円~3,000万円以下300万円
3,000万円~5,000万円未満借金総額の10分の1

減額された借金は任意整理と同様に原則3年間で返済していきますが、借金が減ることから任意整理時よりも月々の返済負担は減らすことができます。

個人再生では住宅ローンは支払い中であっても、住宅ローン特則を利用することで住宅は没収されずに済みます

また個人再生は裁判所と通して手続きを行うため、裁判所へ支払う費用も発生します。

裁判所へ支払う費用
  • 予納金:15~25万円
  • 申立手数料:10,000円(貼付印紙額)
  • 郵便切手:1,620円
  • 官報公告費用:13,744円

減額される借金だけでなく、これら費用の支払いも考え、任意整理で返済してきた金額よりもメリットが大きければ、個人再生は選択すべき方法です。

自己破産とは

自己破産は認められれば借金は免責される、つまりは帳消しされるため、返済の必要はなくなります。もし個人再生でも返済していくことが難しい場合は自己破産を考えた方が良いでしょう。

借金からは解放される自己破産ですが良いことばかりではありません。

  • 持ち家は手放さなければならない
  • 一定額以上の価値がある財産は手放さなければならない
  • 資格制限を受けるため仕事に影響が出る場合がある

一定額以上とは先ほども少し触れましたが、査定した際に20万円以上の価値がある物です。

また生命保険の解約(解約返戻金がある場合)、不動産、有価証券なども処分しなければなりません。

資格制限も受けますので、士業や警備員といった特定の職業に就いている方は制限を受けるため、自己破産の手続き中は、該当する業務に就くことが出来なくなってしまいます。

借金は免責されるとはいえ、専門家、裁判所費用は発生します。特に処分する財産がある方であれば管財事件となり、裁判所へ支払う費用も高くなります。

これは破産管財人が選任されるためであり、予納金として20万円~50万円、費用が上乗せされるためです。

個人再生、自己破産ともに任意整理よりも費用がかかるだけでなく、デメリットが生じることも念頭に手続きを進めましょう。

まとめ

任意整理後、支払いができなくなった時は放置せず、まずは任意整理を依頼した弁護士や司法書士に連絡しましょう。

注意すべきは支払いを2回以上滞ってしまった場合です。これは期限の利益喪失となり、債権者から一括返済を求められるからです。

任意整理の和解契約によりますが、支払いの遅れが1回のみであれば、期限の利益喪失にはならず、次回返済日に未払い分を合わせて返済すれば問題ありません

期限の利益喪失となった場合、分割払い他、債権者に対応してもらいたい場合は、

  • 再和解
  • 追加介入

といった方法がありますが、再和解では返済額が増える、返済期間の短縮など条件が悪くなる可能性や、そもそも和解に応じてくれない可能性もあります。

追加加入も利用できる人は限られることも考えると、任意整理ではない他の債務整理(個人再生や自己破産)も検討すべきでしょう。

個人再生であれば任意整理より借金を減額できるため、返済負担を減らせる可能性があります。また自己破産であれば借金を免責できます。

個人再生、自己破産は任意整理と比べると専門家や裁判所へ支払う費用負担が増えるなどデメリットはありますが、任意整理で返済ができない時の対処方法として覚えておきたい債務整理です。