個人事業主や自営業者が債務整理で任意整理を利用すべき理由とは

任意整理

個人事業主や自営業者の方が債務整理を考える場合、個人再生、自己破産よりも事業へ影響が出にくいのが任意整理です。

任意整理は借金の利息分をカットすることで借金を減らし、返済額を減らせますが個人事業主や自営業者の方が借金整理に適した理由として、

  • 財産等を没収されない
  • 住宅を手放す必要がない
  • 家族に迷惑がかかりにくい
  • 弁護士や司法書士の費用が安く済む
  • 売掛金に影響がでない

等々、仕事に影響しにくく借金問題を解決できる方法だからです。

このページでは個人事業主や自営業者の方が任意整理を利用するメリット、デメリット、また他の債務整理の場合と比較しながら、詳しくご説明いたします。

そもそも任意整理とはどんな債務整理か

任意整理は今後支払う予定である利息がカット(免除)されます。

減額できるかは場合によります

つまり支払う利息が多ければ多い方であれば、任意整理で得られる減額効果が高くなるため、

  • 現在の返済で利息をどれぐらい支払っているのか?
  • 任意整理でいくら減額されるのか?
  • 減額された後の借金を返済していけるのか?

がポイントとなります。

どのくらい借金が減額されるかは債権者(貸し手側)との交渉次第となるため、任意整理の経験が豊富な弁護士、または司法書士に依頼すべきでしょう。

任意整理で減額された借金は原則3年間(返済回数36回)で返済していきます。減額交渉と同じく、返済期間も債権者との交渉次第で伸ばすことも可能です。

例えば任意整理で借金が100万円まで減額した場合、3年間で返済するとなれば、月々約28,000円返済していきます。

この28,000円の支払いが難しい場合、もし5年間(返済回数60回)であれば月々約16,700円であれば返済していけるのであれば、返済期間を5年間で交渉します。

返済期間は長期化すればするほど、対応に応じない債権者もいますので、いかに上手く交渉を進めるかがポイントとなります

任意整理を選ぶべき理由(メリット・減額効果)について

個人事業主や自営業者の方が任意整理を選ぶべき理由は冒頭で紹介した通り、

  • 財産を没収されない
  • 未回収の売掛金を没収されない
  • 住宅を手放す必要がない
  • 家族に迷惑がかかりにくい

などのメリットがあり、仕事に影響が出にくいためです。

住宅など財産、売掛金が没収されない

まず任意整理では自己破産と違い、住宅や財産、未回収の売掛金が没収されません。また任意整理の対象となる借金も選べます(個人再生、自己破産は全ての借金が対象となります)。

住宅(持ち家)や財産(車や預貯金など)も手放すこともないため、家族に迷惑はかかりにくいのも任意整理の特徴です。

未回収の売掛金があっても任意整理であれば、没収されることもなく、影響もしません。これが個人再生であれば減額される借金に影響がでる、自己破産であれば没収されます。

個人再生、自己破産における未回収の売掛金の取り扱いについては後ほどご説明いたします

任意整理の対象を選ぶことができる

任意整理で財産が没収されるとすれば、ローンで支払い中の物の所有権がローン会社にある場合です。

しかし任意整理であれば、ローンを支払っているローン会社を任意整理の対象から外すことができますので、手元に残すことができます。

また取引のある銀行のローンも除外することもできます。

取引のある銀行のローンを任意整理の対象にしてしまうと、その銀行口座が凍結されてしまうため、事業に支障がでてしまいますが、このようなリスクも避けることができます。

事業の継続も視野に入れているのであれば、銀行のローンは対象から外しておきましょう。

銀行のローンの場合、低金利で融資されていることも多く、カットできる利息も少ない場合もあるため、減額効果と照らし合わせても任意整理の対象から外すか、相談してみましょう。

任意整理を利用した時のデメリットとは

任意整理における個人事業主や自営業者の方にとってのデメリットは以下です。

  • 銀行等から融資が受けられなくなる
  • 一定期間、ローンが組めない、クレジットカードが作れなくなる
  • 現在利用中のクレジットカードが使えなくなる
  • 弁護士、司法書士に依頼すると費用はかかる

では詳しく見ていきましょう。

一定期間、新規で融資やローン、クレジットカードが利用できなくなる

任意整理を利用した場合、新規融資、ローンの契約、クレジットカードが作れなくなります。

また普段からクレジットカードで色々支払っている方であれば、支払いを金融機関口座からの引落しや振込用紙での支払いなどに変更しなければなりません。

クレジットカードは任意整理をしていないクレジットカードも含め、利用出来なくなる可能性があります。

これは信用情報機関に事故歴として記録されるためです。これらデメリットは後ほど説明する個人再生と自己破産とも共通しています。後ほど詳しくご説明いたします

任意整理では個人再生や自己破産のように「官報」に情報は掲載されません。

官報は誰でも閲覧できる国の新聞のようなものです。インターネット版官報もありますが、任意整理を利用したことは他人知られることはまずありません。

任意整理を弁護士や司法書士に依頼した場合は費用が発生する

任意整理を弁護士や司法書士に依頼した場合は費用が発生します。

任意整理はご自身でもできますが、債権者との交渉で借金の減額や返済期間など有利な条件を取り付けるためにも専門家である弁護士、司法書士に依頼すべきでしょう。

減額や返済期間など満足のいく結果になる可能性が高くなるからです。

また費用は訴訟に発展した場合は費用が高くなる場合があります。任意整理で費用を抑えたいのであれば、司法書士への依頼も一つです。

ただし任意整理を司法書士に依頼する場合、

  • 借金総額140万円以下の案件に限られる(1件あたり)
  • 訴訟になった場合は裁判所へ代理出廷ができない

ことが挙げられます。訴訟になるかは事前にわからない場合もあるため、裁判所への出廷が仕事などで難しい方であれば、弁護士に任せてしまったほうがよいでしょう。

裁判所へ出廷する日時はご自身の都合で決められません

個人再生と自己破産のメリット・デメリットとは

任意整理では返済していけない場合、事業の継続は難しくなりますが他の債務整理を検討しなければなりません。

個人事業主や自営業者の方にとって、個人再生と自己破産のメリット、デメリットについて見ていきましょう。

個人再生のメリット・デメリットとは

個人再生のメリット
  • 5,000万円以下の借金であれば利用できる
  • 借金を大幅に減額できる
  • 住宅(持ち家)を手放さずに済む
  • 取り立てが止まる
  • 自己破産できなかった人でも利用できる可能性がある

個人再生のメリットは借金が大幅に減額される可能性があることですが、最大のメリットは全ての借金が減額の対象となる中、住宅ローンだけ対象から外すことができるため、住宅(持ち家)を手放さずに済むことです。

自己破産ができなかった方(免責不許可となった方)でも利用できる可能性があるため、借金問題を可決する上で最後の砦ともいえる債務整理です。

個人再生のデメリット
  • 費用がかかってしまう
  • 銀行等から融資が受けられなくなる
  • 一定期間、ローンが組めない、クレジットカードが作れなくなる
  • 現在利用中のクレジットカードが使えなくなる
  • ローンで支払い中の物は没収される(住宅以外)
  • 官報に掲載される

個人再生は弁護士に依頼する方が多いですが、弁護士費用、裁判費用も高額になります。

住宅を残すためには「住宅ローン特則」を利用しなければなりませんが、弁護士費用だけで50万円前後必要となりますし、個人再生委員が選任された場合は15万円以上、裁判所へ支払わなければなりません。

自己破産のメリット・デメリットとは

自己破産のメリット
  • 借金が帳消し(免責)になる
  • 取り立てが止まる

自己破産が認められれば、どれだけ借金があっても帳消し(免責)になります。

ただし全ての借金が認められるわけではなく、浪費やギャンブルが原因であれば、認められにくくなります(免責不許可)。

自己破産のデメリット
  • 住宅他、高価な財産は没収される
  • 借金は免責されるが自己破産の手続きに費用はかかる
  • 銀行等から融資が受けられなくなる
  • 一定期間、ローンが組めない、クレジットカードが作れなくなる
  • 現在利用中のクレジットカードが使えなくなる
  • ローンで支払い中の物は没収される(住宅以外)
  • 官報に掲載される

自己破産は借金が帳消しになる代わりに住宅や高価な財産は没収されます。高価な財産とは処分した際に20万円以上の価値がある物であり、預貯金や生命保険の解約返戻金、不動産なども含まれます。

また返済できない状態であるため、自己破産をされるかと思いますが、自己破産には弁護士費用、さらには裁判所費用も必要となります。

財産がある場合は管財事件となり、費用も50万円以上かかります。

管財事件となると裁判(管財人)費用として20万円以上必要となります

弁護士費用は分割払いに対応してくれる法律事務所もありますし、費用が用意できない場合は法テラスを利用する方法もあります

個人再生・自己破産で共通するデメリット

ご覧の通り、個人再生と自己破産では共通するデメリットがあります。

  • 銀行等から融資が受けられなくなる
  • 一定期間、ローンが組めない、クレジットカードが作れなくなる
  • 現在利用中のクレジットカードが使えなくなる
  • 官報に掲載される

銀行からの融資、ローンやクレジットカードが利用できなくなる理由は、債務整理(任意整理も含む)を行った情報は信用情報に記録されるためです。

信用情報は以下、信用情報機関に保管されています。

信用情報機関
  • CIC
  • JICC
  • 全国銀行個人信用情報センター

債務整理に関する情報は各信用情報機関で異なります。

信用情報機関記載される項目記載内容
CIC「26.返済状況」の項目「異動」と記載
JICC信用情報記録開示書(ファイルD)
「異参サ内容」「異参サ発生日」
「債務整理」と記載
全国銀行個人信用情報センター「取引情報」の項目代位弁済他、記載
(銀行からの借り入れを債務整理した場合)
債務整理の情報他、延滞情報なども記録されます

このように信用情報には「異動」「債務整理」など事故歴として信用情報に登録されるため、5年間~10年間は融資やローン、クレジットカードは利用できなくなります。

債務整理の種類信用情報機関にデータが保管される期間
任意整理完済後~5年
個人再生5~10年
自己破産5~10年

信用情報に保管される期間が過ぎれば、再び融資やローン、クレジットカードは利用できるようになります。

クレジットカードは債務整理した本人名義のものだけとなるため、家族名義のクレジットカードは利用できますが、債務整理した本人名義で契約した家族カードは利用できなくなります

売掛金が回収できていない時は注意が必要

取引先から売掛金が回収できていない場合、個人再生や自己破産は避けるべきでしょう。

個人再生における注意点

未回収の売掛金がある場合、個人再生では減額効果が薄くなるためです。

未回収の売掛金がある場合、この売掛金は「清算価値保障の原則」に基づき「清算価値があるもの」として判断されます。

例えば、借金総額が480万円、未回収の売掛金が200万円あるとします。借金総額が480万円の場合、個人再生の減額基準でいえば、100万円まで借金は減額されます。

個人再生前の借金総額個人再生後の借金総額
(減額基準に従い算出)
100万円未満借金総額
100万円~500万円以下100万円
500万円~1,500万円以下借金総額の5分の1
1,500万円~3,000万円以下300万円
3,000万円~5,000万円未満借金総額の10分の1

しかし未回収の売掛金200万円が清算価値のあるものとして判断されることで、100万円ではなく200万円までしか減額されなくなります

自己破産における注意点

自己破産は20万円を超える財産は没収されますが、未回収の売掛金(20万円以上)も財産と判断されるため没収されます

没収されるのは20万円以上の売掛金であり、20万円以下は手元に残すことはできます。

没収された売掛金は貸し手側(債権者)へ公平に分配されます

また20万円以上の財産がある場合、管財事件扱いとなり、自己破産の手続きにかかる費用も高くなります。

管財事件となることで弁護士費用等も高くなるだけでなく、管財人(破産管財人)の費用として20万円以上、追加で費用がかかります

ちなみに自己破産の手続きを弁護士に依頼している場合は「少額管財事件」として取り扱う裁判所もあり、管財人費用は20万円で済む場合もあります(東京地裁の場合)。

・ご自身で自己破産した場合は40万円ほど費用がかかります
・少額管財事件として扱うかは裁判所により異なります
・管財人の費用(引継用納金)は50万円以上となることもあり、非常に高額です

まとめ

個人事業主や自営業者の方が債務整理を考える場合、以下に該当される方は任意整理を選びましょう。

任意整理を選ぶべき方の特徴
  • 事業を継続させたい
  • 財産を手放したくない
  • 未回収の売掛金がある場合
  • 家族に迷惑をかけたくない
  • 他人に知られたくない

任意整理の減額効果はこれから支払う利息がカットされます。減額された後の借金は原則3年間(交渉によっては~5年)で完済を目指します。

ただし任意整理では借金問題の解決にならない、返済が難しい場合は個人再生、自己破産もデメリットを理解した上で検討しなければなりません。

個人再生のデメリット

住宅や財産、売掛金は没収されませんが、財産や売掛金が多い場合は、減額効果は薄くなります。

自己破産のデメリット

借金は帳消し(免責)になりますが住宅、車、20万円を超える財産などが没収されます。

原則は事業(仕事)で必要な道具、機器は没収の対象から外されますが、事業継続は難しくなる、断線も覚悟せざるを得ないでしょう。