借金の返済に苦しんでいながら、「財産をなくしてしまう」「普通の生活さえできなくなる」といった理由から、自己破産に踏み切れない人が多いのではないでしょうか。
法律で認められた債務整理の手続きですが、自己破産を申し立てる債務者が少ないのは、メリットとデメリットについて正しく理解されていないことが原因のように思われます。
この記事では、自己破産の手続きのおさらいとともに、メリットとデメリットについて詳しく解説します。
自己破産についてありがちな誤解を解消するためにも、しっかりと読んで欲しいと思います。
自己破産についてのおさらい
ここでは、債務整理の自己破産のおさらいとして、手続きの基本的なことに関して解説します。
自己破産とは債務者による自分の破産申立て
自己破産とは、生活に最低限必要な財産以外が差し押さえられ、その価値分を返済に充てる代わりに、借金の返済義務を裁判所に免除してもらう法的な手続きを言います。
この自己破産の手続きは2つに分かれており、1つが「財産の調査および換価の手続き」、つまり申立人の財産の調査と金銭に換える手続きです。
またもう1つは、申立人の借金全額の返済義務を法的に無くす手続きで、「免責の手続き」と言います。
破産の手続きは『破産法』に規定されており、債権者と債務者のいずれも破産手続き開始の申立てが可能です。
債権者の破産手続き開始の申立てが「債権者破産申立て」で、債務者の申立ては自分で破産を申し立てるという意味で「自己破産」と呼ばれています。
自己破産手続きは2種類ある
巷では、自己破産の手続きは3種類あるとする情報や、2種類あるとした情報が混在しています。
3種類の場合の手続きは「同時廃止・管財事件・少額管財」を言い、2種類の場合は「同時廃止・管財事件」を言います。
つまり、少額管財を自己破産の1つの手続きに位置付けた記事では3種類、裁判所における管財事件の運用の1つに位置付けている記事では2種類で扱われています。
管財事件の手続きは時間も費用もかかることから、申立人には非常に大きな負担がかかっていました。
そうした負担を軽減することを目的に、管財事件の運用方法の1つとして「少額管財」の手続きが行われるようになったのです。
なお、どちらの手続きで行うかの基準は、差し押さえられるような財産がない場合は「同時廃止」、差し押さえられるような財産がある場合は「管財事件」に振り分けられます。
財産を所有していない場合は「同時廃止」
同時廃止とは、申立人に債権者へ配当する財産のないことが明らかな場合に、破産管財人を選任せずに、「破産手続きの開始決定と同時に、破産手続きが廃止される手続き」です。
同時廃止と管財事件の振り分けは裁判所が判断しますが、多くの地方裁判所では「20万円以上の財産がない場合」は同時廃止に振り分けます。
なお、東京地方裁判所での振り分けで行われているのは、「即日面接」という方式です。
申し立てた日に弁護士と裁判官が面談し、同時廃止と管財事件のどちらに振り分けるかを決定します。
一定の資産を所有している場合は「管財事件」
管財事件とは、裁判所が選任した「破産管財人」が申立人の財産を調査した上で管理・差し押さえなどの処分をし、それを債権者に弁済や配当する手続きです。
破産管財人の調査で弁済するほどの財産がない場合は、弁済や配当をせずに破産手続きが終了します。
同時廃止と管財事件のいずれで取り扱うかの基準は、裁判所によって異なっていますが、一般的には次の2つも要件を備えていると、管財事件に振り分けられる可能性が高いと言えるでしょう。
- 評価額20万円以上の財産がある場合
- 33万円以上の現金がある場合
自己破産をしたほうが良い状況
債務整理の専門家でもある弁護士や司法書士が、借金返済に苦しむ人に「自己破産をしたほうがいい」と勧めるときは、どのような状況の場合でしょうか。
ここでは、自己破産をしたほうがいい代表的な状況を4つ取り上げて紹介するとともに、「自己破産をしたくてもできない場合」についても解説していきます。
住宅ローンの返済だけでも困難な場合
住宅ローンの返済自体が苦しい場合は、短期間のうちに自宅を売却せざるを得なくなるのが一般的です。
しかし、競売や任意売却で自宅を売却しても、売却価格が住宅ローンの残額を下回り、売却後も返済を続ける必要があります。
したがって、自宅の売却後に残った住宅ローンは、自己破産をして支払義務の免除をしてもらうのが有効な手段です。
自宅を持っていないが借金返済の目途が立たない場合
自己破産の最大のデメリットと言われているのは、自宅を売却しなくてはならないことです。
したがって、自宅を持たずに賃貸マンションや賃貸アパートに住んでいるが、借金の返済が厳しい人はすぐにでも自己破産をすべきでしょう。
今後も子供の教育資金が必要な場合
今後も子どもの教育資金が必要になる場合は、自己破産をせずに返済を続けていくと、資金ショートすることが多いのが現実です。
破産を避けて「子ども名義で奨学金を使う」ことを考える親はいますが、卒業後は子ども自身が奨学金を返済しなければなりません。
そうしたことを考えるよりも、子どもに迷惑がかからないよう早めに自己破産をして、貯金を始めていきましょう。
定年退職までに借金を完済できる見込みがない場合
定年後は年金生活が一般的ですが、そうなると今よりも収入が減るケースが大半です。
収入が今より減ってしまうと、借金の返済は一層苦しくなります。
したがって、定年退職後も借金が残る場合は、今のうちに自己破産しておくことがおすすめです。
今のうちに自己破産しておけば、本来返済するはずだった資金を貯金することで、定年退職後の生活資金にまわせます。
自己破産ができない場合もある
ここでは、希望があっても自己破産ができない場合について具体的に紹介します。
申立人が支払不能者と認定されない場合
支払不能者とは、「継続的な返済の目途が立たないと判断される状態の申立人」のことです。
申立人が支払不能者であるとことを認定してもらうためには「破産申立書」で事情を裁判所に伝え、裁判官に判断してもらう必要があります。
破産申立書で申立人が支払不能者と認定されない場合は、自己破産はできません。
借金した理由が免責不許可事由の場合
免責不許可事由とは、噛み砕いて言うと「自己破産を認めるのには値しない借金の理由」です。
たとえば、過去7年以内に自己破産の免責を受けたことがある、ギャンブルやブランド品の買い物などの浪費が過大な借金の原因である、と言った事由です。
免責不許可事由に該当する理由での申立人の自己破産は難しい場合があります。
借金が非免責債権である場合
「非免責債権」は、公益上の理由や特定の債権者保護のため、必ず返済しなければならない債権のことです。
たとえば、税金・公共料金・社会保険料・罰金・養育費・慰謝料などがそれに該当します。
借金がこうした非免責債権である場合は、その申立人の自己破産はできません。
申立人が資格(職業)制限の該当者の場合
自己破産をすると会計士、税理士、保険募集人や警備員、古物商、旅行業務取扱管理者、調理師など、一定の期間に限り就けない職業があります。
こうした仕事をしている場合には、退職や転職した上で自己破産を検討する必要があることから、実質的に自己破産は困難です。
自己破産をしても処分されない5つの財産がある
自己破産では申立人の財産は換価処分が原則ですが、債務者が自由に扱える財産という意味で「自由財産」と呼ばれる財産があり、これらは処分する必要がありません。
この自己破産をしても処分されない財産5つを、次に要約して解説します。
破産財団に組み入れられる財産は、破産手続き開始時時点で申立人が所有している財産に限られます。
そのことで、「新得財産」と呼ばれる破産手続き開始後に申立人が取得した財産は、自由財産として換価処分の対象になりません。
申立人が所有している財産のなかには、法律上の強制執行の1つである「差押え」ができないものがあり、これを「差押禁止財産」といいます。
この差押禁止財産も自由財産に該当し、具体的には次の2つです。
- 差押禁止動産:民事執行法131条に定める生活必需品などの財産
- 差押禁止債権:民事執行法152条や年金法41条に定める年金や生活保護費の受給権、退職金など
99万円以下の現金は、破産法で無条件に保有が認められる自由財産です。
99万円以下の現金は自由財産とされていますが、東京地方裁判所においては、33万円以上の現金がある場合には、同時廃止ではなく管財事件で取り扱われます。
自由財産を残しただけでは申立人の最低限度の生活を維持できない場合があることから、裁判所が認めた財産は自由財産とするという制度が運用されています。
これが「自由財産の拡張」で、その財産が申立人の生活に必要不可欠かどうかが判断基準です。
なお、東京地方裁判所などでは、自由財産の拡張が認められる財産がリスト化されています。
破産財団に組み入れられた財産には処分費用が高い、買い手がつかないなどで価値として充てられない財産もあります。
そうした財産については、破産管財人は裁判所の許可を得て、破産財団から除外するのです。
これが「破産財団からの放棄された財産」で、放棄されて以降は自由財産として処理されます。
自己破産の手続きにかかる費用
実際に自己破産をするとなると、返済に困っている債務者にとって一番心配なのは、費用がいくらかかるかということでしょう。
そうした心配に応えるため、ここでは自己破産に必要な費用の相場を紹介します。
なお、弁護士費用の相場は都道府県や弁護士の経験度などで金額が異なるので、ここで紹介する金額はあくまでも全国平均での相場と受け止めてください。
裁判所費用は約3~30万円が相場
裁判所に支払う費用は「申立手数料(印紙代)」「予納郵便券代」「予納金」の3つで、費目別の金額は次表のとおりです。
費目 | 金額 |
---|---|
申立手数料(印紙代) | 1,500円程度 |
予納郵便券代 | 3,000~15,000円 |
予納金 | 同時廃止:1~3万円 少額管財:20万円~ 管財事件:30万円~ |
裁判所に支払う費用は同時廃止か少額管財かで大きく異なり、負担が少ないのは同時廃止の方だと言えます。
弁護士費用は約20~40万円が相場
弁護士に支払う費用は「相談料」「着手金」「成功報酬」の3つで、費目別の金額は次表のとおりです。
費目 | 金額 |
---|---|
相談料 | 0~ 1万円 |
着手金 | 20~40万円 |
成功報酬 | 0~30万円 |
自己破産の手続きにかかる弁護士費用の相場は約20~40万円で、金額に幅があるのは、処分する財産が多い場合は手続きが複雑になることに因ります。
自己破産の手続きごとにかかる費用の相場
自己破産の手続きに必要な費用は、裁判所に支払う費用と弁護士に支払う費用です。
次表に、自己破産に必要な費用の相場を、手続きごとに紹介しましょう。
手続きの種類 | 裁判所費用 | 弁護士費用 | 合計 |
---|---|---|---|
同時廃止 | 3万円〜 | 55万円〜 | 58万円〜 |
管財事件 | 30万円〜 | 40万円〜 | 70万円〜 |
少額管財 | 20万円〜 | 55万円〜 | 75万円〜 |
この表から明らかなとおり、自己破産でも「同時廃止」であれば費用を抑えられます。
弁護士費用は分割払いが可能
月々の借金返済に苦しむ人にとっては、たとえ同時廃止であっても、裁判に必要な費用を準備することは簡単なことではないでしょう。
そうした債務者におすすめなのが、近年はそれほど珍しくはなくなった弁護士費用の分割払いです。
まずは分割の要望を伝えてください。
なお、弁護士費用の分割払いの場合、分割は6〜12回が目安で金利や手数料はほとんど発生しない、と考えて良いでしょう。
自己破産の手続きで必要な書類
自己破産をする際に必要な書類のうち、主なものは次表のとおりです。
ここで紹介しているのは最低限必要な書類なので、状況によって他にもさまざまな書類が求められます。
なお、自己破産を弁護士に委任している場合は、弁護士がすべての書類の準備や作成をしてくれるので、申立人に手間がかかることはありません。
書類の概要 | 書類名 |
---|---|
自己破産申立ての書類 | 自己破産申立書・陳述書など |
住居関連の書類 | 賃貸借契約書・不動産登記簿謄本・住宅使用許可書など |
財産関連の書類 | 資産目録・生命保険証書・車検証・預金通帳など |
収入関連の書類 | 給与明細書・源泉徴収票・課税証明書など |
居住地に関する書類 | 住民票 |
戸籍に関する書類 | 戸籍謄本 |
借金に関する書類 | 債権者一覧表・滞納公租公課一覧表 |
自己破産にはメリットとデメリットがあります
自己破産は、すべての借金をゼロにできる、法律で認められた債務整理の手続きの1つです。
この自己破産の手続きには、大きなメリットがあるだけではなく、デメリットもあります。
しかも、自己破産について正しく理解していないことが原因と思われる多くの誤解もあり、それがデメリットと言われているのが現実です。
ここでは、自己破産のメリットとデメリットをしっかりと確認できるよう情報を提供します。
自己破産の4つのメリット
ここではまず、自己破産の代表的なメリットを4つ紹介します。
返済義務が免責されることで借金が全てリセットされる
自己破産の最大のメリットはいくら多額であっても、裁判所の免責許可が決定されることで返済義務が免除され、借金が無くなることです。
本来であれば、返済しなければならない借金を支払う必要がなくなるので、この効果は非常に強力なものといえます。
債務整理の手続きは他にもありますが、全ての借金をゼロにリセットできるのは自己破産だけ、生活の立直しにつながるメリットです。
債権者からの督促や取立てが停止する
自己破産の手続きを開始する際に弁護士が最初にするのは、債権者に受任通知を送付することです。
この受任通知を受け取った債権者は、それ以降に督促や取立てができないことから、電話や督促状などで悩まされてきた申立人は手続きのメリットをすぐに感じられます。
また破産手続きが開始されると、債権者による訴訟の提起も禁止され、すでに提訴されている訴訟は中断するので、平穏な生活を取り戻せることも大きなメリットです。
将来の見通しが立てられるようになる
借金がリセットされることで、将来の見通しが立てられるメリットがあります。
返済の資金準備に追われ、借金の残高さえ理解できていなかったものが、自己破産で借金がリセットされると冷静に受け止められるようになるのです。
家族のことや将来のことが余裕を持って考えられるようになることで、人生を計画的に歩むための第一歩を踏み出せます。
このことこそが、自己破産のような手続きが法律で認められている理由でもあるのです。
自己破産をしても生活に必要なものは残せる
自己破産するとすべての財産を取りあげられてしまうと思っている人が多いのですが、そうではありません。
最低限の生活ができるだけの財産は残せます。
自己破産をしても、『自己破産をしても処分されない財産がある』の記事で紹介している「自由財産」については、取り上げられる心配はありません。
具体的には、破産手続き開始後に取得した新得財産や家具・家電・衣類などの差押禁止財産、99万円以下の現金などが残せます。
自己破産のデメリット
自己破産ことを漠然と知っている人は多いのですが、自己破産をするとどのようなデメリットがあるのかをしっかりと知っている人は少ないのが現実です。
特に自己破産は借金がなくなるという大きなメリットがあることから、それと引き換えにとてつもないデメリットがあると大勢の人が思っています。
そこで、ここでは自己破産のデメリットを正しく理解するために、一般的にデメリットと言われていることを取り上げて解説しましょう。
所有している財産は原則として処分される
自己破産を申立てて免責されると、生活に最低限必要と認められない財産は原則として処分されます。
原則とは言え、所有している財産が処分されてしまうことは、自己破産の最大のデメリットです。
自己破産で財産が処分されてしまうことはだれも知っていますが、実際の手続きの運用では、生活に最低限必要な財産については例外として残せるのです。
残せる財産の基準の1つは20万円
次のような「資産価値で20万円を超えないもの」は残せる財産です。
- 査定額が20万円を超えない車
- 合計20万円を超えない預貯金
- 合計20万円を超えない解約返戻金の生命保険
- 8分の1が20万円を超えない退職金(現時点で自主退職した場合の退職金)
生活に必要でないものは20万円未満でも処分の対象
資産価値が20万円未満の資産であっても、貴金属・株式・ゴルフ会員権などは処分の対象です。
このように、20万円未満の財産であっても、日常生活に必要と認められない財産については、処分される可能性があります。
ただし実務上では、処分の対象にされる財産はそれほど多くありません。
自宅や車などの担保物は没収される可能性がある
自己破産を開始すると、担保物をとっていた債権者は担保権(別除権)を行使し、担保物を売却したり没収したりするのが一般的です。
担保は破産されたときに備えて設定しているものなので、没収は避けられません。
住宅ローンや自動車ローンでは、住宅や車が担保にとられていることがほとんどなので、自己破産をすると強制競売や引揚げなどで没収されます。
ただし実務上では、査定価格が20万円未満の車であれば、維持できることが多いようです。
すべてのクレジットカードが強制解約
自己破産手続きをすると、クレジットカードを契約する際の約款にもとづいて、契約済みクレジットカードを強制解約されます。
公共料金やスマホ使用料などをクレジットカード決済で支払っている人は、現金振込や口座振替などへの変更が必要です。
クレジットカードで購入した高額商品は引き揚げられる
クレジットカードで商品を購入した場合、代金が完済されるまで、その商品はカードを契約した際の約款に基づいてクレジットカード会社に担保にとられている状態です。
したがって、購入商品に価値がある場合や高額商品の場合は、その商品の返却を求められる可能性があります。
手続きが終るまで制限をうける資格(職業)がある
自己破産手続きをすると、一定の期間に限り資格を利用すること(職業に就くこと)が制限されます。
これを「資格(職業)制限」といい、制限を受ける期間は、破産手続き開始決定から免責許可が確定して復権するまでの約4カ月です。
制限を受ける資格は実に多岐にわたりますが、一般の人が自己破産をする際に問題になりやすい具体的な資格を紹介すると、次のとおりです。
- 警備員
- 卸売業者
- 生命保険募集人(保険外交員)
- 宅地建物取扱主任者
- 旅行業務者
なお、すでにこれらの職業に就いている人は、制限を受ける期間だけその仕事から離れる(部署異動など)か、他の債務整理手続きの検討が必要です。
法人役員は強制解任される
資格制限とは別に、破産手続きの開始決定が出ると、会社の取締役など法人の役員は、法律にもとづいて強制的に解任されます。
役員を続ける場合は、株主総会決議などによる再任の手続きが必要です。
一度退任にすると再任が難しい場合には、任意整理や個人再生を検討しなければなりません。
官報への掲載
自己破産をすると、裁判所での手続きの進行に伴い、延べ3回ほど官報に申立人の氏名と住所が掲載されます。
官報とは、法律の制定や改正・国家試験の合格者などが掲載される、国が発行する広報紙のようなものです。
裁判所内の本屋などでしか購入出来ず、一般の人が官報を読む必要性が低いことから、官報で自己破産のことがバレる可能性は少ないと言えるでしょう。
ブラックリストに載るので新たな借入れは困難になる
自己破産をすると、それは「事故情報」として個人信用情報機関に登録されます。
これが、一般に言われる「ブラックリストに載った状態」です。
ブラックリストに載ると、ローンやクレジットカードの利用が停止され、登録が抹消されるまでの7〜10年間、新たな借入れやクレジットカードの契約などができなくなります。
もっとも、借金に頼らない新たな生活をスタートさせる手続きが自己破産なので、強制的に借金ができないことはむしろメリットとも言えるでしょう。
保証人には影響がある
保証人を立てている借金がある場合に自己破産をすると、債権者は保証人に対して返済を求めます。
申立人は返済できないときに備えて保証人を立てているので、その請求は止められません。
迷惑をかけたくなければ、自己破産をする前に保証人に相談をするのが、申立人としての当然のマナーです。
そうした事前の対応ができていないのであれば、保証人を立てている借金を除外した債務整理の可能性を検討すべきでしょう。
自己破産についての誤解を正す
自己破産に関しては、実にさまざまな誤解があります。
しかも、それらがデメリットとして受け止められていることが原因で、自己破産を申し立てることをためらっている人は多いようです。
ここでは、自己破産についての誤解を取りあげ、それに関する正しい情報を紹介します。
しっかりと読みすすめ、自己破産に関するさまざまな誤解を解消させてください。
会社をクビになる
クビになる、つまり解雇されるにはそれなりの理由があり、どうしたことが解雇理由になるかは当該企業や組織の「就業規則」に定められています。
もっとも、就業規則に解雇理由として自己破産を規定している企業や団体などは、皆無と言えるでしょう。
したがって、自己破産をしたことだけを理由に解雇されることはありません。
なお、金融機関に勤めていたり、勤務先企業から借金をしていたりといったケースを除き、自己破産をしたことが企業側にバレる可能性は低いかと思われます。
戸籍に記録が残る
自己破産をしても、そのことが戸籍に記録されることはありません。
戸籍と誤解されているのは、本籍地の市町村役場で管理されている「破産者名簿」と思われます。
この名簿は、制限資格(職種)の関係で名前などの情報が記録されているもので、既に自己破産で免責許可を受けている場合は名簿にも載りません。
また、この破産者名簿は非公開で企業や一般人が閲覧できないので、この名簿で自己破産のことが知られることはないと言えます。
選挙権を失う
選挙権は、憲法によって保障された国民の重要な権利の1つです。
そのことから、「選挙犯罪」以外の理由で選挙権を制限することは、憲法違反とするとの判例が示されています。
自己破産は選挙犯罪ではないので、自己破産をしても選挙権が制限されることはありません。
パスポートを取得できず海外に行けなくなる
自己破産をしても、パスポートを取得することに問題は無く、自由に国内外の旅行もできます。
ただし、『管財事件の破産手続き中』に旅行や出張で居住地を離れたい場合は、破産法第37条の定めにもとづく裁判所の許可が必要です。
これは、裁判所や破産管財人がいつでも申立人と連絡を取れるようにしておくためのルールで、期間は東京地方裁判所の2~3カ月が目安と言えます。
居住を制限される
居住制限とは、破産者が裁判所の許可を受けずにその居住地を離れられないと言う『破産法』の定めです。
申立人にこの居住制限が適用されるのは破産手続き中に限られ、手続きが終了すると制限は解除されます。
また手続き中であっても、裁判所の許可があれば、旅行や出張と同じように居住地を離れることは可能です。
賃貸住宅や携帯電話などが契約できなくなる
原則として、自己破産を理由に賃貸住宅の契約ができなくなることは無く、携帯電話の契約に影響が出ることもありません。
ただし、信用情報機関に事故情報が登録されている期間は、保証会社の審査に通らないので、保証会社を使わない物件を選ぶのがおすすめです。
また、利用料金などの滞納があった場合などは、その携帯電話会社では契約ができない場合があります。
年金や生活保護の対象から外される
自己破産後でも生活保護を受けることは可能ですが、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 生活を支援してくれる人がいない
- 家や車などの財産を所有していない
- 自治体が定めた基準よりも収入が低い
年金については、年金を受け取っている金融機関の口座自体は財産処分の対象になるので、注意が必要です。
年金の受給権はそのままですが、口座に振り込まれた年金は預金債権になり、ほかの預金口座と同様に処分対象として扱われます。
家族の進学や就職に悪影響がある
自己破産が、家族の進学や就職などに悪影響を与えることはありません。
しかし、自己破産によって持ち家を失うため、引っ越しを余儀なくされることがあります。
その結果、子どもの転校や配偶者の転職など、家族にも一定の影響が及ぶ場合もあるのです。
また、申立人が契約している解約返戻金が20万円を超える学資保険は処分の対象になることから、子どもの教育資金はあらためて積み立てる必要があります。
自己破産した後の結婚相手はカードが使えない
自己破産をした場合、申立人はブラックリストに載る関係で、7~10年間はクレジットカードを使えなくなります。
もっとも、この個人信用情報機関への事故情報の登録は個人単位なので、たとえ夫婦であっても本人以外に影響が出ることはあり得ないことです。
したがって、自己破産後に結婚した相手や家族には何の影響もありません。
契約している保険は解約される
積立型の生命保険など、解約した際に返戻金が20万円を超える保険は財産として見なされることから、解約され配当されてしまう可能性があります。
ただし、返戻金が20万円以下の場合や掛け捨て型保険の場合は、解約されません。
また自己破産後に、新たに生命保険に加入することも可能です。
免責不許可事由があると免責されない
自己破産では常に免責されるわけではなく、免責不許可事由という一定の事由がある場合には免責されません。
たとえば、ギャンブルで借金を増やしたり、特定の債権者にだけ弁済をしてしまったり、換金行為をしてしまった場合などが免責不許可事由に当たります。
しかし、さまざまな事情を考慮して裁判所が「免責してもいい」と判断すると、その裁量によって免責されることがあるのです。
なお、裁判所の裁量で行われるこの免責は、「裁量免責」と呼ばれています。