「自己破産すると、車を手放す必要があるの?」
「障がいがあるので、車がなければ生活に支障が出る!」
自己破産を考えている人にとって悩ましい問題の1つは、手続き後も車を使い続けられるのか、ということではないでしょうか。
この記事では、「自己破産をする際の車の取扱い」と「車を持ち続けるにはどうすればいいのか」といったことについて解説します。
自己破産を検討しているマイカー所有者は、ぜひ参考にしてください。
自己破産の概要をおさらい
自己破産をわかりやすく説明すると、裁判所に「破産申立書」を提出して「免責(借金をゼロにする)許可」をもらう手続きと言えます。
ここでは、債務整理の中で一番多くの借金減額が期待できる、自己破産の概要を紹介します。
そもそも自己破産とは
そもそも自己破産とは、「財産や収入が不足して借金返済の見込みがないことなどを裁判所に認めてもらい、税金や罰金などの非免責債権を除く全ての借金の支払義務を免除してもらう手続き」です。
とは言え、自己破産の手続きを申し立てても、裁判所はだれに対しても借金をゼロにすることを認めるわけではありません。
次のように、2つの要件を満たすことで初めて、自己破産の手続きが成立します。
裁判所が「債務に対する申立人の支払能力」を審議し「申立人が支払不能(借金の支払いが不可能)の状態に陥っていること」を認めると、まずは破産手続き開始が決定です。
「支払不能」というのは分かりにくい言葉ですが、破産法2条11項に定める状態のことを言います。
申立人が現在所有している資産やこれから得られる収入などから判断して、債務の完済は不可能であろうと考えられる状態です。
この破産手続き開始の決定は、あくまでも「申立人は支払不能状態であること」を裁判所が認めたことで、借金をゼロにすることを認めたわけではありません。
借金の支払義務を免除するのは裁判所の「免責許可」であり、この免責許可が出されると借金をゼロにすることが法的に認められるのです。
自己破産手続きをする目的はこの免責許可を得ることですが、申立ての事由(物事の理由や原因)によっては免責が許可されません。
この免責が許可されないことを「免責不許可決定」と言い、その場合は借金がそのまま残ってしまいます。
どのような事由を免責不許可と判断するかは、『破産法第252条』に定める免責不許可事由に該当するかどうかです。
つまり、裁判所は、破産法に定める免責不許可事由に該当する借金には免責許可を出しません。
ここに、破産法に定める免責不許可事由のいくつかを紹介しておきましょう。
- 財産の隠匿(こっそり隠す)・損壊・不利益処分その他不当な価値減少行為
- 不当な債務負担行為、換金行為
- 特定の債権者にだけ借金の返済を行う偏頗弁済(特定の債権者だけへの返済)の行為
- ギャンブルや浪費による財産の減少
- 詐欺的な借り入れ
- 裁判所に対する説明拒絶や虚偽説明行為
以上のように、自己破産においては裁判所によって「支払不能」と「免責許可」の2つの要件が認められると、申立人は借金の支払義務が免除されます。
自己破産の種類と特徴
自己破産の申立人が支払不能状態にあると裁判所が判断すると、破産手続きの開始が決定します。
自己破産の破産手続きは、「管財事件」と「同時廃止」の2種類です。
管財事件の手続きは時間も費用も掛かることから、債務者にとっては非常に大きな負担になっていました。
そこで、平成11年4月からは、予納金の少ない「少額管財事件」の手続きも行われています。
この管財事件と同時廃止へ振り分ける際の基準は次のとおりです。
- 換価(金銭に換えること)できる財産がある場合は管財事件
- 換価できるような財産が特にない場合は同時廃止
以降で、少額管財事件を含めた3つの手続きの特徴を紹介しておきましょう。
法律用語で「管財事件」というのは管財案件のことで、裁判所が選任した破産管財人が財産調査・換価・配当を行う手続きです。
申立人に換価できる財産があるときは、裁判所は破産管財人をとおして財産の売却・換金・債権者への配当の手続きをします。
また、破産管財人は申立人の経済的更生(経済面で元のよい状態にもどす)を図るため、免責してもいいかどうか調査・報告するなど、申立人の利益を図る手続きも行うのです。
申立人が20万円以上の財産を持っている場合に破産管財人を選任し、主として財産調査を目的に行う手続きです。
少額管財事件は破産法で規定された手続きではなく、破産法の範囲内で手続きの簡素化・迅速化を図り、管財事件にかかる手間や費用を軽減する手続きと言えます。
なお、少額管財事件を利用できるのは、弁護士が代理人になって自己破産の申立てをした場合に限定されています。
申立人に財産がなく調査などの必要がない場合に、破産手続き開始決定と同時に破産手続きを終了する手続きがあり、それを「同時廃止」と言います。
この手続きでは破産管財人が選任されず、短時間で破産手続きが終了します。
同時廃止事件では、破産手続きは開始と同時に終了しますが「免責手続き」は残ります。
自己破産で残せない財産と残せる財産
自己破産は、申立人が「持っている財産を債権者に返済に充当することで、足りない分については返済を免除してください」と裁判所に申し立てる手続きとも言えるでしょう。
したがって、自己破産をすると、申立人の債務が免責される代わりに、申立人所有の財産は破産管財人によって処分されます。
このことから、自己破産を検討している人の中には、「家具や家電、身の回りの物はどうなるのか」「マイカーはどうなるのか」といった不安を持つ人は多いようです。
しかし自己破産は、申立人の全財産を没収したり生活を困窮させたりする手続きではないうえに、だれもが全財産を処分しなければならないといった手続きでもありません。
ここでは自己破産をする際の、残せない(処分される)財産と残せる(処分されない)財産について解説します。
残せない財産とその要件
自己破産の手続きにおいては、申立人の財産は裁判所に選任された破産管財人によって管理・換価処分され、それで得られた金銭を債権者に弁済や配当します。
この破産管財人によって管理・処分される財産が「破産財団」です。
「財団」というと組織体のようなものをイメージしますが、破産財団はそうしたものではなく、換価処分すべき申立人の財産の集合体を意味します。
処分される(破産財団に組み入れられる)のは次の要件を備えた申立人名義の財産に限られ、配偶者など他の家族名義の財産は処分されません。
- 換価価値がある「財産」である
- 破産手続き開始時に申立人が所有している
- 差押えが可能である
- 自由財産でない
以降に、これら4つの要件について解説しておきます。
財産である
処分されるのは、「財産」に限られます。
破産財団に組み入れられる財産は、原則として『破産法』に定める「破産者が破産手続き開始時において保有する一切の財産」です。
ここで言う財産とは、不動産や動産などの「物」だけではなく、金銭の請求権などの「債権」や著作権などの「無形の権利」なども幅広く含まれます。
つまり、「物」に限らず金銭に換えられる観念的なものであっても、「財産」に含まれるのです。
破産手続き開始時に申立人が有していること
自己破産手続きで没収されるのは申立人の財産に限られます。
また、申立人のすべての財産というわけではありません。
破産手続きは裁判所の破産手続き開始決定で開始されることから、その時点で申立人所有の財産だけが対象です。
したがって、開始決定より後に申立人が手に入れた財産(「新得財産」という)は、処分されません。
また、開始決定以前に失った財産も原則として処分されませんが、破産管財人の「否認権行使」によって強制的に没収されることがあります。
なお、「否認権行使」とは、破産手続き開始前に申立人が行った売却や譲渡などの行為の効力を否定して、破産財団の損失を回復する破産管財人の権能(権利と能力)です。
差押えが可能であること
破産財団に組み入れられるのは、破産手続き開始時に申立人が保有している財産のうち、差押えが可能なものに限られます。
破産手続き開始時に申立人が保有しているものであっても、『民事執行法』で差押えが禁止されている財産(「差押禁止財産」という)は、没収されることはありません。
差押禁止財産は『民事執行法』によって差押えが禁止されている以上、破産手続きにおいても換価処分を禁止する必要があるからです。
自由財産ではないこと
すべての財産を処分されてしまうと、申立人は破産手続き開始決定後の生活が困難になってしまいます。
そこで、処分されないとして法律で定められているのが「自由財産」です。
具体的には、破産決定手続き開始後に取得した「新得財産」や手続き開始時点で申立人が所有していた99万円以下の現金などが該当します。
この自由財産は破産手続き開始決定後の申立人の生活を守るための財産なので、破産手続き開始後も破産財団に組み入れられることはありません。
残せる財産は2種類
自己破産について多くの人が誤解していることの1つは、「自己破産をすると無一文になる」ということではないでしょうか。
実際にはそうではなく、自己破産をしても法律で認められている「自由財産・自由財産の拡張」は持ち続けられます。
したがって、自己破産の手続きをしても「無一文になってしまう」といったようなことはなく、次に紹介する「自由財産」と「自由財産の拡張」の2種類の財産を残せるのです。
自由財産は3種類で構成
自由財産とは、「差押禁止財産」「99万円以下の現金」「新得財産」の3つの財産です。
『破産法34条3項』にもとづき『民事執行法131条』に定める次のような財産
- 生活に欠かせない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具
- 1カ月間の生活に必要な食料および燃料
- 標準的な世帯の2カ月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
手続き開始時点で申立人が所有する紙幣や硬貨などの現金
銀行などの預金や貯金はすぐに現金化できますが、法的には「預貯金払戻請求権」という債権であることから、自己破産の自由財産の現金には該当しません。
現金は申立人の生活確保のための差押禁止財産で、『民事執行法』では2カ月分の必要生活費として66万円以下と定めていますが、自己破産手続きでは3カ月分の99万円で運用されています。
自己破産において処分の対象となる財産は、破産手続き開始決定時に申立人が所有している財産です。
そのことから、破産手続き開始決定後に取得した財産は換価の対象にはならず、自由財産として残せます。
自由財産の拡張に統一基準はない
自由財産の拡張とは、『破産法34条4項』の定めによって、破産手続き開始決定後1カ月以内の申立てまたは裁判所の職権で自由財産と見なされる財産です。
どのような財産を自由財産の拡張として認めるか認めないかの統一的な基準は存在しませんし、裁判所によっても違いがあります。
裁判所は申立てに応じて破産管財人に意見を聴き、申立人の生活に必要で不可欠な財産であれば自由財産の拡張を認めるのです。
たとえば、高齢で再加入が困難な解約返戻金のある保険を解約できない事情がある場合や、生活のための必需品である車などが自由財産の拡張として認められることがあります。
しかし、そうした事例が必ず認められるわけではなく、あくまでも本当に必要かどうかを精査した後に裁判所が判断を下すのです。
次に、東京地方裁判所において自由財産の拡張に該当すると認めている財産を紹介しておきましょう。
- 残高(複数の場合は合計額)が20万円以下の預貯金
- 見込額(数口の場合は合計額)が20万円以下の生命保険解約返戻金
- 処分見込額が20万円以下の車
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
- 居住用家屋の敷金債権
- 電話加入権
- 家財道具
自由財産の拡張の申立ては早ければ早いほど良い
自由財産の拡張が必要な破産事件は同時廃止ではなく管財事件なので、必ず破産管財人が選任されています。
破産管財人が選任されたということは、すぐにでも財産の換価といった管財業務がスタートしてしまうということです。
特に保険や預金通帳の解約などの処理は1カ月程度で終了するため、自由財産の拡張を申し立てるのであれば自己破産申立と同時に行うのがベストと言えます。
自己破産手続きを弁護士や司法書士などの専門家に委任する人は、申立て前の段階から自由財産の拡張についてよく話し合っておくことが必要です。
自己破産での車の取扱い基準
債務整理をする人にとって悩ましい問題の1つが、マイカー(車)の取扱いです。
車の取扱い基準は債務整理手続きの種類によって異なることから、「車の取扱い基準」で債務整理のどの手続きを選択するかを決定する人が多いと言われています。
ここでは、自己破産をする際の車の取扱い基準について解説します。
一般的な取扱い基準
自己破産をした場合、原則として車はどのように取り扱われるかを見ていきましょう。
車は整理対象の財産なので、自己破産をすると、原則として裁判所かローン会社に没収されるのが原則です。
しかし、実務上は、車に「ローンが残っているかどうか」と「車の査定額」によって次のように異なります。
ローンの状況 | 車の査定額 | 取扱い |
---|---|---|
ローンが残っている車 | 査定額は関係しない | ローン会社に没収される。 |
ローン完済か現金購入した車 | 20万円以上の場合 | 裁判所に没収される。 |
ローン完済か現金購入した車 | 20万円未満の場合 | 没収されず自由財産として取り扱われる。 |
この表で分かるとおり、ローンの返済が残っている状態で自己破産をすると、「ローン会社に没収」されてしまいます。
また、ローン完済か現金購入した車でも、査定額が20万円以上だと「裁判所に没収」されてしまうのです。
ただし、ローン完済か現金購入した査定額が20万円未満の車に限り、自己破産後も持ち続けられます。
ローンが残っている車の取扱い基準
車のローンは「ローン完済まで所有権はローン会社にあること」を条件にした契約がほとんどで、名義変更までは「車検証」の所有者欄にはローン会社名が記載されています。
つまり、ローンを返済中の車の所有者は、ローン会社ということです。
そのため、自己破産をすることが明らかになると、ローン会社は「わが社の財産」として申立人から車を没収します。
ローン会社が車を没収するタイミングは、自己破産の手続きを委任された弁護士や司法書士から「委任通知」を受け取ったときです。
なお、次の場合には例外としてローン会社からの没収を避け、車を持ち続けられる可能性があります。
第三者弁済とは申立人以外の第三者(通常は家族・親族・保証人など)がローン残額を一括返済することで、そのことで車を持ち続けることが可能になります。
この第三者弁済を行う際に注意しなければならないのは、申立人に名義変更された車の査定額が20万円以上であれば、名義変更後に裁判所に没収されてしまう可能性があることです。
ローンを完済した車の取扱い基準
ローンを完済している車は自己破産をしてもローン会社から没収されることはあり得ないのですが、査定額が20万円以上の車は原則として裁判所に没収されます。
なぜ20万円かというと、査定額がそれよりも安いと破産管財人を選出したり車を換価したりする手続きに費用がかかり、債権者への分配ができなくなってしまうからです。
それでは意味がないので、多くの地方裁判所では「査定額20万円を最低基準」に設定しています。
なおここでいう査定額とは、中古車販売店や車買取り業者が対象の車を査定したうえで決定する買取り価格で、申立人にとっては自分の車の売却金額に当たるものです。
査定額20万円以上の車は原則として裁判所に没収されますが、この没収を免れるケースがあります。
それは、車の査定額が20万円以上であっても、車の査定額を含めた申立人の自由財産の合計額が99万円を超えない場合です。
たとえば、車の査定額が35万円であっても他の自由財産が60万円であれば自由財産の合計額は95万円なので、車は「自由財産」と見なされます。
そのことで、これまでどおり車を持ち続けることを認められる可能性があるのです。
自己破産をしても車を持ち続けられる
自己破産をした場合、車の取扱いについては例外的な基準を適用できるケースがあり、そのことで車を持ち続けられることがあることはすでに紹介したとおりです。
ここでは、そうしたケースも含め「自己破産をしても車を持ち続けられる5つのケース」を紹介します
「車を手元に残したままで自己破産をしたい」と考えている人は、ぜひ参考にしてください。
車を持ち続けられる5つのケース
自己破産をしたときに持っている車は、原則として持ち続けられません。
しかし、次に示すようなケースでは、適切な対応をすることで、自己破産をしても車を手元に残せる可能性があります。
- 車の名義人であるローン会社が交渉に応じてくれるケース
- 車の査定額が20万円未満で没収されないケース
- 車の査定額が20万円未満で第三者が一括返済するケース
- 車を手元に残すべき特段の事情があるケース
- 自由財産の拡張を受けられるケース
これら5つのケースにおいて、どのように対応すれば車を手元に残せるかを具体的に見ていきましょう。
なお、どのようなケースであれば車を没収しないかの基準は、ローン会社でも裁判所でも設定されていません。
したがって、ここで紹介するケースであれば必ず車を手元に残せるということではなく、「残せる可能性がある」というように理解してください。
ローン会社が交渉に応じてくれるケース
自己破産をした場合、破産管財人よりローン会社に没収される方が、車を手元に残せる可能性が高いものと言えます。
ローン会社に没収されたときには、債権者であるローン会社と直接交渉する余地が残されているからです。
自己破産の手続きが開始される返済が中断することから、申立人にはある程度の「新得財産」が見込めます。
そこで、「これまでどおりローンの返済をすること」を条件に、ローン会社へ没収の回避を申し入れるのです。
このことで、ローン会社の多くは、申立人が車を使い続けることに同意する可能性が高いと言えるでしょう。
また、すでに「ローンが残っている車の取扱い基準」で紹介したとおり、第三者弁済をする方策でも車を持ち続けられる可能性があります。
没収されないケース
「売却額が20万円未満になることが見込まれる財産」は、没収の対象から除外されます。
ローンの返済が終わっている申立人名義の車の場合も、査定額が20万円未満であれば、自己破産しても没収されないで自由財産としてそのまま使用できます。
なお、査定額が20万円未満であることを証明するには、専門業者による査定書を裁判所に提出することが必要です(複数の査定書を提出するのが一般的)。
なお、査定書の提出ルールは裁判所によって異なることから、必ず弁護士に確認してください。
たとえば、東京地方裁判所の場合、初年度登録後6年経過している普通乗用車の査定書の提出は不要ですが、大阪地方裁判所の場合は査定書を提出しなければなりません。
第三者が一括返済するケース
このケースについてはすでに紹介していますが、査定額が20万円未満の車の場合、申立人ではなく第三者がローンを一括返済することで手元に残せます。
第三者、つまり親や子供・保証人などがローンを一括で支払ってしまうことを第三者弁済といい、そのことで法的に何の問題もなく車を残せるのです。
なお、申立人本人が一括返済することは、すべての債権者に対して平等に対応するという観点から、破産法で禁止されています。
残すべき特段の事情があるケース
車を保持しなければならない「特段の事情」が認められた場合、裁判所から車の使用を認められる可能性があります。
「特段の事情」とは、具体的には次のような事情です。
- 家族の介護支援で利用している
- 自分に障がいがあり車がなければ生活に支障が出る
- 公共交通機関が不便で親の通院や子供の送迎で車が必要
- 個人タクシーやトラック運転手の仕事を維持するために必要
- 車がないと生活が困難な場所に住んでいる
こうした事情によって、裁判所から、20万円を超える車でも持ち続けることを認められる可能性があります。
なお、自己破産をする人の多くが期待している「通勤に使う」という事情は、「特段の事情」とは認められません。
自由財産の拡張を受けるケース
通勤に使う車を「特段の事情」があるとして持ち続けることはできませんが、申立人の自由財産の総額によっては、「自由財産の拡張」によって持ち続けられる可能性があります。
自己破産をした場合、99万円までの財産は、申立人の自由財産として手元に残すことが認められています。
そこで、「ローンを完済した車の取扱い基準」で紹介したとおり、査定額を自由財産とした場合の自由財産合計額が99万円を超えない範囲であれば、車を手元に残せるのです。
99万円を超えない範囲であれば、車の査定額が20万円以上であっても問題はありません。
車を持ち続けたくても自己破産前にしてはいけないこと
自己破産をする人のなかには、違法と判断されかねないような方法で、車を持ち続けようとする人は少なくありません。
ここでは、車を残したい人が自己破産前に絶対にしてはいけない4つの代表的な行為について解説します。
ここに紹介するような行為をするのであれば、弁護士に相談して、別な債務整理手続きを選ぶべきです。
車の名義を変更する
自己破産で没収されるのは、申立人が所有している財産だけです。
だからといって、自己破産手続き直前や手続き中に車を申立人の名義から他の家族の名義に変えて使い続けることは絶対にしてはいけません。
そうした行為は、裁判所に発覚すると「財産隠し」と判断され、免責を受けられなくなるうえに、最悪の場合は刑事事件として取り扱われる可能性があり
また、名義変更を目的にした売却も『破産法』の禁止事項です。
車の不当な処分
車を自分で不当に処分することは『破産法』で禁止されていますが、車を適正な価格で売却してその費用を返済に充てるのであれば問題はありません。
しかし、故意に車を廃車処分するような行為は、破産法における「詐欺破産罪」に該当する可能性があるのです。
「詐欺破産罪」には、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、または両刑が科されます。
自己破産は支払不能者が経済的に再生するための手段で、自己破産をすることでそれが可能になるのです。
そうした手続きにおいて詐欺破産罪を犯すなどといったことは、許されることではありません。
ローンを申立人が一括返済する
ローンを完済した車は、ローン会社から没収されません。
そこで、自己破産後も車を持ち続けたい人は、「自己破産前にローンの一括返済をすること」を考えがちです。
しかし、この自己破産前の一括返済は、だれの資金で行うかによって合法にも違法にもなります。
「第三者弁済」という家族や親族などの第三者に一括返済してもらうのであれば合法であり、車を持ち続けられます。
しかし、申立人が自分の資金で一括返済をするのは違法であり、自己破産による免責を受けられなくなります。
このような自己破産前に特定の債権者にだけ返済する行為は「偏頗(へんぱ)弁済」と言われ、債権者平等の原則に反するとして破産法で禁止されている行為です。
車にローンが残っていることを隠す
自己破産の申立をする際、申立人は所有している資産の目録を添付しなければなりません。
ローンの残っていない車は自由財産ではなく純粋に資産・財産であることから、自己破産をすると原則として換価処分することが必要です。
しかし、車を持ち続けるためにローンが残っている事実を隠しつつ、査定額を20万円未満で資産目録「自動車・バイク等」で報告する人がいます。
車のローンが残っていることを隠しても自己破産の通知はローン会社に届くので、裁判所に嘘の報告をしたことは必ず発覚するのです。
嘘の報告をしたことは破産法上の重要財産開示義務違反行為や詐欺行為と見なされ、免責不許可事由となる可能性があります。